2011年12月7日水曜日

何故エンジニアを適正に評価出来ない会社に務めてはいけないのか。経済学的に考察する

このエントリはCompetitive Programming Advent Calendar(Day7)用に書かれたものです。

みなさんこんにちは、cacahuatlと申します。
競技プログラミングクラスタのAdvent Calendarですが、私はそんなに実力が高くないし、技術的なことも、他の方々に比べると正直ひよっこ以下です。

なので、私の経済学部出身という地の利(?)を利用して、ちょっと変わった記事を書くことにしました。

たびたび、エンジニアを適正に評価出来ない会社に勤めてはいけないという話を聞きます。
これは何故でしょうか?直感的には合っているような気がしますが、本当でしょうか?
このエントリでは、上記の、「何故エンジニアは自身を適正に評価出来ない会社に勤めてはいけないのか」という問題を経済学的に考察していきたいと思います。

注意:筆者は経済学に関して素人です。経済学者様などにドヤ顔でこの話をするとフルボッコにされる可能性があるため、注意して下さい。

考察するにあたり、現実を単純化した「モデル」を考えます。シムシティやシムズを想像してくれると早いかと思います。

この世界では、エンジニアを雇う企業は2つしかありません。一つは、エンジニアの能力を適切に評価出来る企業。もう一つは、エンジニアの能力を全く評価出来ない企業です。
この世界では、どちらの企業も常に人材が不足していて、エンジニアの求人を常に出しています。どちらの企業も、自分が適正だと思った報酬以上の額をエンジニアに支払うことはありません。

「何だか現実の世界と随分違うなぁ。。。」そう思った貴方。はい、その通りです。しかし、

             /)
           ///)
          /,.=゙''"/
   /     i f ,.r='"-‐'つ____   こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /


現実を精密に再現する必要は無いのです。現実を単純化し、現実の世界を理解する手がかりを掴めれば、それだけで素晴らしいことであるとは思いませんか?

この不思議な世界では、エンジニアは自分の能力が分かっていますですから当然、自分の能力に対する適正な報酬も分かっています。
企業も同じです。エンジニアを適切に評価出来る企業は、適正報酬が分かっていますし、そうでない企業は、適正報酬も分かりません。

エンジニアを適切に評価出来る企業は、その人材に対してどのくらい払えばいいのか分かっていますから、面接に来た人に対して、その報酬を提示すればいいですよね。
でも、そうでない企業の場合、どうすればいいのでしょう?

。。。と、いうところで。
これはCompetitibe Programming Advent Calendarであることを思い出して。
今回は、競技プログラミング風に、問題を解くことで考えてみましょう。


Div2 Easy 250

Adverse Selection

貴方はエンジニアの能力を適正に評価することの出来ない会社の採用担当をしています。
貴方の会社に雇われる可能性があるエンジニアの能力が、abillityとして与えられます。
エンジニアは、自身のabillityを下回る報酬を提示する会社に雇用されることはなく、常に自分のabillity以上の報酬を支払う会社に雇用されようとします。
貴方の会社はエンジニアを適正に評価することが出来ないため、エンジニアへの報酬として、貴方の会社に雇われる可能性のあるエンジニア達の能力の平均を提示します。
平均は常に整数で、小数点以下は切り捨てられます。
初期状態では、全エンジニアが雇われる可能性のあるものとします。

最終的に貴方の会社にくる可能性があるエンジニア達の能力を返しなさい。


Class :                      Company
Method:                   adverseSelection
Parameters:              vector<int>
Returns:                   vector<int>
Method signature:    vector<int> adverseSelection(vector<int> abillity)

この問題は再帰関数で愚直にシミュレーションを行うことで解けそうです。
実装してみましょう。

#include <vector>

using namespace std;

#define REP(i,s,e) for (int i = int(s); i != int(e); i++)
#define rep(i,e) REP(i,0,e)
#define foreach(i,c) for (typeof((c).begin()) i = (c).begin(); i != (c).end(); i++)

class Company{
public:
 // 平均を計算するヘルパ関数
 int mean(vector<int> ability){
  int sum = 0;
  foreach(iter,ability) sum += *iter;
  return sum/(int)ability.size();
 }

 vector<int> solve(vector<int> ability,int numPeople){
  int reward = mean(ability);
  
  /* 自分の能力より報酬が低ければくる可能性はない。 */
  foreach(iter,ability) if(*iter > reward){ ability.erase(iter); iter--;} 

  /* 来社する可能性があるエンジニアの数が減少していれば、平均が変わるため、再帰する。 */
  return ((int)ability.size() == numPeople)? ability:solve(ability, (int)ability.size());
 }

 vector<int> adverseSelection(vector<int> ability){
  // 再帰一発。
  return solve(ability, (int)ability.size());
 }
};


この解答を実行すると分かりますが、最終的に会社に来る可能性のあるエンジニアは、常に能力の最も低いエンジニアとなり、報酬も最低値を取ります

何故こうなるのか?

初期状態では、全エンジニアは雇われる可能性があります。
これらの平均を報酬として提示すると、平均より高い実力を持ったエンジニア達は「うわっ、私の年収、低すぎ・・・?」となり、雇われようとしなくなります。
結果、雇われる可能性があるのは、平均以下の実力を持ったエンジニアだけになります。
ここで再び、実力の平均を再計算すると、当然、以前の平均よりも低下します。
すると、下がった平均より高い実力を持ったエンジニア達は「うわっ、私の年収、低すぎ・・・?」となって、雇われようとしなくなります。

このループは全てのエンジニアが同じ実力となるまで続き、最終的に実力が最低値の人間のみになると終了します。

つまり、エンジニアの能力を適切に評価出来ない企業は、このモデルにおいて、最低の実力を持ったエンジニアしか雇いません。

このことが指し示すのは、エンジニアの能力を適切に評価出来ない企業で働くと、報酬が低く、周囲にいるエンジニアの能力も低いという劣悪な環境に置かれる可能性が高い、ということです。

なるほど、確かに、エンジニアを適切に評価出来ない企業で働くことは、合理的とは言えなさそうです。

このように、自分が購入しようと考えているものの価値が自分では分からない時、とにかく安いものを求めた結果、品質の悪いものを買ってしまうようなことを、経済学では「逆選択」と言います。

教科書的には、アメリカの中古車市場で品質の悪い車ばかりが出回っている理由を説明する時に、用いられます。

消費者は中古車の品質が分からないので、安い物を買おうとする

品質の良い中古車を売っている業者は、品質に見合った値段を付けても売れないため、市場から退出する

市場には品質が悪く安い車しか残らなかった。

ということが起こったのだと言われているそうです。

競技プログラミングとは殆ど関係の無い記事でしたが、ご愛嬌ということで(笑


最後に一つ申し上げておきますが、本記事は、エンジニアの方をdisるものでは決してありません。念のため。

このような楽しい企画を主催して下さった@_tanzaku_様、有り難うございました。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。